26歳でお笑い賞レースのファイナリストになるなど、お笑い芸人として早くから頭角を現したショーゴさん(東京ホテイソン)。高校卒業と同時に芸人を志し、飲食店で長年アルバイトをしながらネタづくりに励んでこられました。
ホールの仕事が苦手で「本当にできないヤツだった」と語るショーゴさん。それでもキッチンの仕事に活路を見出し、どの職場でも欠かせない戦力に。原動力になったのは、もともとの真面目な性格と、複数の飲食店バイトを渡り歩くなかで身に付けた処世術だそうです。本人に、当時のことを振り返っていただきました。
飲食店の「バイトガチャ」に失敗し、1カ月で辞めたことも
-ショーゴさんのアルバイト遍歴を教えてください。
ショーゴさん(以下、ショーゴ):初めてのアルバイトはファミレスです。高校1年生の夏前から高校3年生になるまで働きました。高校卒業後は芸人を目指しながら、生活のためにいろんなバイトをやりましたね。居酒屋で2年、別のファミレスで1カ月、そば屋で1カ月、ピザ屋で1年半くらい。ほかに、「自動販売機のペットボトルを補充する人を監視するだけの仕事」という謎のバイトもやりましたが、基本的には飲食店のバイトばかりでした。
-主に飲食店を選んでいた理由は何ですか?
ショーゴ:そもそも高校に入ってバイトをしようと思ったものの、どう始めればいいのかが分からなくて。とりあえず、客としてよく行っていたファミレスの“偉そうな人”に「バイト、募集してますか」と話しかけたんです。
その人はマネジャーだったんですけど、実際に募集中だったみたいで面接を受けさせてくれました。飲食店を希望していたというよりは、最初にたまたま採用してもらえたのが飲食店だったという感じですね。その後も、同じ飲食店のほうが慣れていてやりやすいというのが大きな理由で、特に自分に向いているとは思いませんでした。
-ちなみに、2回目のファミレスとそば屋は1カ月で辞めたということですが、何があったんでしょうか?
ショーゴ:人間関係ですね。シンプルに合わなかった。どちらのお店にも、自分と相性の悪い店長がいました。特に気になったのは、仕事の教え方です。メモが追いつかないほどの量を、一度にすべて叩き込もうとしてくるので戸惑いました。そもそも店長自身ができるから、「お前もできて当然だろ」っていう態度なんですよね。初日からそんな接し方でした。
-新人に対して、その対応は……。
ショーゴ:だから、自分が教える立場になった時は、新人さんに丁寧に接しようと思いました。僕は主にキッチン担当だったのですが、例えば高校生のバイトさんなんて、料理をしたことがない人も多いですから。いきなり包丁でキャベツを切れとか、鉄板で焼きそば作れなんて言われても無理ですよ。
逆に、最初のバイト先のファミレスの店長さんは教え方も上手でした。僕の場合は、まずはフライヤーが持ち場になって、「タコの唐揚げは(1人前で)10個、唐揚げは4個、フライドポテト一掴みと半分。まずはこれだけ覚えて」といった具合に、一つずつ仕事を覚えさせてくれて。
教わったことをひたすらやっていれば、それがメニューになってお客さまに提供できる。モチベーションが上がって、もっと仕事を覚えようという気持ちになりますよね。
そういうリーダーがいると職場の雰囲気も良くなります。バイトを長く続けられるかどうかって、8割は人間関係や職場の雰囲気にかかっていると思うので、店長やマネジャーの人柄は大事なポイントだったかもしれません。
-ただ、店長の人となりは実際に入ってみないと分からない。
ショーゴ:そう。だから「バイトガチャ」に失敗すると悲惨ですよね。 忙しい時に機嫌が悪くなる人、短気になる人も苦手で。それも、新人に当たり散らす人は嫌でしたね。逆に、長く続いたバイト先の店長は、忙しい時ほど周囲に気を配れる人でした。
みんながテンパっている時に、「いま手が離せなくて、ちゃんと教えてあげられなくてごめんね」と何気ない一言をかけてくれるので、こちらも安心できるんですよね。
あえて「笑顔を見せない」面接。苦手な仕事を回避し、採用されるための戦略
-人間関係以外に、アルバイトで苦労したことはありますか?
ショーゴ:とにかく仕事ができなかったですね。特にホールが苦手でした。メインはキッチンでしたが、たまにヘルプでホールに入る時は憂鬱で。例えば、お客さまを席に案内する時もパニックになってしまう。
「ピーク時はあそこに案内する」とか、「あそこは予約席だからこっちで」といった瞬時の判断ができなかったです。料理を運んでいる時にほかのお客さまから声をかけられたら、どこに持っていけばいいか忘れてしまったり。ビール1杯しか注文していない人に、間違えて4万円の伝票を持って行った時は、さすがに笑われましたけどね。
-苦手なホールを回避するために、アピールなどはしていましたか?
ショーゴ:マネジャーに「ホールは本当に苦手なんで、仕事になりませんよ」と言っていましたし、そもそも面接の時から、とにかくキッチンの話ばかりしていましたね。「前の職場でもキッチンをやっていました」「キッチンの仕事を評価してもらっていました」「ここでもキッチンをやりたいです」と、しつこいくらいキッチンという単語を連呼して。
あとは、面接の時に「こいつはホールに向いていないな」と思わせるようにしていました。
-それは、どうやって?
ショーゴ:明るく振る舞わないことですね。明るくハキハキしている人って、ホールに回されやすそうじゃないですか。相方のたける(東京ホテイソン)は僕と真逆のタイプなんですけど、現に飲食店のバイトではずっとホールを担当していましたから。
だから、「おとなしそうだけど、仕事は真面目にコツコツやりそうなタイプ」に見られるような受け答えを意識していました。店長がボケた時以外は、いっさい笑顔を見せないようにして。
それでも、バイトの採用面接で落とされたことってほとんどないんですよ。
-すごい。なにかコツがあるのでしょうか?
ショーゴ:まず、当時は芸人の仕事がほぼなくて、いつでもシフトに入れたのが大きかったと思います。あとは、コツと言えるか分からないけど、履歴書は必ずシャーペンで下書きをするようにしていました。その上からボールペンでなぞるんですけど、あえてシャーペンの跡を、ちょっとだけ残しておくんです。「ちゃんと下書きをする真面目な人間だ」と思ってもらえるように。
ほかにも、繁盛していて人手が足りていなさそうな店を狙うとか、学生バイトがごっそり抜ける卒業シーズンを狙うとか、飲食店バイトに受かりやすい条件みたいなものはいくつかあるような気がします。
初日にメニューを丸暗記し、人当たりの良いキャラを演じる。ショーゴ流飲食店バイトの処世術
-ホールが苦手だったショーゴさんですが、キッチンではしっかり戦力になっていたんですよね。
ショーゴ:そうですね。子どもの頃から暗記は得意だったので、例えばピザ屋に採用された時は、全部のメニューとトッピングを初日で覚えました。
-初日で!? すごい……。
ショーゴ:ノートに赤いペンで「マルゲリータ=モッツァレラチーズ+バジル+トマト」と書いて、赤い下敷きでそれを隠して覚える、という受験勉強みたいな方法で暗記していました。
完璧に覚えてしまえば、あとは手を動かすだけ。だからキッチンでは、わりと早い段階から戦力になることができたと思います。
-仕事ができないというより、得意なことと苦手なことがハッキリしていたんですね。
ショーゴ:そうかもしれません。僕がキッチンに入っていた時は、「提供スピードが遅い」みたいなクレームはなかったと思うので。働いていたのはどこも繁盛店で、大学のすぐ近くのファミレスや、池袋の繁華街の居酒屋、新宿歌舞伎町のピザ屋だったりしたのですが、大量の注文が入ってもしっかりさばけていました。
-ちなみに、当時はあまり社交性がなかったと。職場でのコミュニケーションがうまくいかない時期もありましたか?
ショーゴ:まあ、そこは今もあまり変わっていませんが(笑)。特に先輩が苦手でしたね。ただ、苦手だからといってコミュニケーションを拒否していると雰囲気が悪くなるし、自分自身のことも嫌になる。苦手だからこそ、「人当たりが良い人」を演じていました。大きい声であいさつや返事をしたり……って、まあ当たり前のことなんですけど、意識的に頑張っていました。
そうすれば大抵の人は好意を持ってくれて、優しく接してくれるようになります。こちらも少しずつ素が出せるようになって、緊張もなくなる。最初の1〜2カ月くらいを乗り切ったら、普通に溶け込むことができるようになりましたね。
-バイト先の仲間と遊びに行ったり、飲みに行ったりもしましたか?
ショーゴ:頻繁には行かなかったけど、年に2〜3回、みんなで集まるような場には顔を出すようにしていました。イヤでしたけどね。何事もそうですけど、最低限の社交はやらないと。今も、例えば年に2回くらいレギュラー番組の飲み会があって、仕事がなければ必ず行きます。
たかがバイトじゃない。でも、合わない職場で我慢することもない
-芸人として駆け出しの頃は、急にオーディションが入るなどしてアルバイトを休まざるを得ないケースもあったと思います。そのあたりは、うまくやれていましたか?
ショーゴ:そういうことがあった時に認めてもらえるように、普段から真面目に仕事をやろうと心掛けていました。普段の勤務態度が悪いうえに、急にシフトに穴を開けるヤツなんてクビになっても仕方ないじゃないですか。
ただ、それでもピザ屋でバイトをしていた頃はテレビにもちょこちょこ出られるようになっていたので、シフトを深夜にするなどして、なるべくバイトを休まずに済むよう調整していましたね。
-すごく誠実で責任感があったんですね。
ショーゴ:芸事とアルバイトは分けないといけないと思っていました。少なくとも、ライブ終わりに打ち上げに行って、二日酔いのままバイトに行くみたいなことはやらないようにしようと。
給料をもらっている以上、「たかがバイトじゃないぞ」という意識は強く持っていました。仕事ができないのは能力の問題や向き不向きがあるから仕方ないけど、真面目にやるかどうかは本人次第じゃないですか。
-ただ、真面目にやっているのになかなか仕事が覚えられなかったり、それこそ職場に馴染めずに悩んでいる人もいると思います。ショーゴさんの経験を踏まえて、アドバイスをいただけますか?
ショーゴ:まず、メモは取ったほうがいいですね。僕も店長から言われたことや失敗したことは常にメモして、毎回の仕事前に読み返すことで「予習」していました。そこまでやれば、ある程度はできるようになると思います。
私の経験上、記憶力で勝るはずの高校生でも、メモを取らない人より、きちんとメモを取る年配の方のほうが早く戦力になっていましたから。
ショーゴ:それから、職場に馴染めない原因が人間関係にあるとしたら、無理に続けなくてもいいと思います。繰り返しになりますが、バイトガチャは確実にあって、どうしても自分に合わない人もいますから。
さっき「たかがバイトじゃないぞ」って言いましたけど、どうしても馴染めなくて辛かったら、そこは「たかがバイトじゃん」と割り切っていいと思います。変に我慢して人生の貴重な時間を無駄にしないためにも、きっぱり辞めてほかのバイトを探せばいい。辞める瞬間は気まずかったりしますけど、そのうちまったく思い出さなくなるので大丈夫です。
-それくらい、バイト先の人間関係は優先順位が高いということですね。
ショーゴ:時給よりも何よりも、まずはそこじゃないですかね。僕は、飲み会とか世渡りの付き合いが正直得意じゃないし、本来は人間関係を語れる分際じゃないんですけど、そんな自分がここまで言うくらいですからね。
だからこそ、職場でちゃんと仕事をして、信頼されることだけは誰よりも大事にしてきました。
時給や仕事内容も大事ですけど、最後はやっぱり「人」。そこで無理して我慢する必要なんて、絶対にないですよ。
【まとめ】不器用でも大丈夫!ショーゴ流飲食店バイトの「生存戦略」6カ条
- 採用されやすい店やタイミングを狙う:まずは勝てる場所を選ぶのが鉄則。学生が辞める「卒業シーズン」や、人手が足りていない「繁盛店」を狙え。
- 履歴書で「真面目さ」を演出:あえて下書きの跡を少しだけ残すのがショーゴ流。一手間を惜しまない誠実な人間だと印象付けろ。
- 自分に有利なキャラを演じきる:得意な仕事(例キッチン)をアピールし、苦手なポジションに回されないよう「おとなしいけど実直」なキャラで。
- 最初の1カ月はひたすら“人当たりが良い人”であれ:苦手な先輩がいても、あいさつと返事だけは徹底的に。最初の関門さえ突破すれば、人間関係はずっと楽になる。
- 地道な努力で最速で「戦力」になれ:自分の武器(例:暗記力など)と、言われたことを必ずメモする「真面目さ」を掛け合わせる。初日にメニューを覚えるなど、イチ早く「仕事ができるヤツ」という信頼を手に入れる。
- 自分を守るために「辞める勇気」を持て:給料をもらう以上、真摯に働くことは大前提。それでも合わない職場なら、自分の時間を無駄にしないためにきっぱり辞める。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部