バイト先のミスで怒られてしまった時の上手な謝り方・ダメな謝り方を専門家に聞いてみた | マイナビバイトTIMES
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    バイト先のミスで怒られてしまった時の上手な謝り方・ダメな謝り方を専門家に聞いてみた

バイト先で怒られた時、頭が真っ白になってしまい、アタフタしてしまった経験はありませんか? バイトでのお客さまへの謝り方には、実は効果的なやり方があります。本記事では、「怒り」と「謝罪」の専門家である川合伸幸先生が、寝坊や接客ミスなどケース別に使えるフレーズを伝授。ピンチを信頼回復のチャンスに変える方法を学びましょう。

【川合伸幸先生のプロフィール】
川合伸幸先生のプロフィール

名古屋大学大学院情報学研究科心理・認知科学専攻教授。専門は比較認知心理学、認知科学、実験心理学。著書に『科学の知恵 怒りを鎮める うまく謝る』(講談社)、『凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体』(小学館)など。2024年、「怒りを書いて捨てる」抑制法の研究成果が国際学術誌「Scientific Reports」に掲載され、世界的にも注目を集めている


そもそも、なぜ人は怒るのか?専門家が教える「怒り」の正体

人が怒っている様子

-川合先生は長年「怒り」について研究されていますが、そもそも、なぜ人は怒るのでしょうか?

川合先生:簡単に言うと、「自分自身を守るため」です。もっと言えば、自分の縄張り(テリトリー)を守るために人は怒るのです。

例えば、自分の部屋に親が何のことわりもなく勝手に入ってきたらイラっとしたり、自分の持っている物を突然奪われたら腹が立ったりしますよね。

「縄張り」といっても、自分の住居やスペース、土地だけを指すのではありません。自分のことをバカにされたり、家族や友人といった大切な人たちを悪く言われたりした時にもカッとなるでしょう。

自分の所有物やプライド・自尊心といった感情も含めて「縄張り」と呼んでいます。

-先日ラーメン店で、「ラーメンより先に餃子を出すのが常識だろ!」と店員を怒鳴りつけているお客さまを見かけたんですが、怒ってしまう理由はどんなことが考えられますか?

川合先生:そのお客さまには、「ラーメンより先に餃子を出すべき」というマイルールがあったのでしょう。自分の中の当たり前を否定されたと思って、つい怒ってしまったのかもしれませんね。

もう一つ考えられるのは、「予定どおりに物事が進まない」ことに対する怒りです。例えば、渋滞にはまった時や、行列で長時間待たされた時など、予定どおりに動けないと、イライラしてしまうこともありますよね。同様に、「餃子を先に食べたかったのに、その予定を店員に妨げられてしまった」という理由で怒っているのかもしれません。

その人がどんな理由で怒っていたのかは、想像でしかない。けれど、ちゃんと想像して相手を理解する姿勢は大切です。

-たしかに、相手が何に対して怒っているのかをきちんと理解しなければ適切な謝罪はできませんよね。そういう意味では、バイト側の想像力や察知能力があってこその謝罪だと。

川合先生:そのとおりです。ただ、どんな理由でも相手と向き合ううえで大切になるのは、「怒りもコミュニケーションの一つ」と意識することです。

怒っている人は、必ずしも「攻撃してやろう」と思っているわけではありません。「分かってほしい」と思って、つい声を荒げてしまっていることがほとんどです。この視点を持って、相手の言い分や心情を理解することで、初めて効果的な謝罪につなげられると肝に銘じてください。


ただ「すみません」はNG?誠意が伝わる「良い謝罪」の8要素

人が謝罪する様子

-では、怒っている人に対して、どう謝ればコミュニケーションがスムーズになるのでしょうか?

川合先生:そもそも謝罪には「良い謝罪」と「悪い謝罪」があります。良い謝罪の方法を理解すれば、バイト先で対人関係のトラブルが起きても、冷静にコミュニケーションがとれるようになるはずです。

まず良い謝罪は、「必須の3要素」と「あればより良い5要素」の「8つの要素」で構成されています。

必須の3要素

  1. 後悔:してしまったことへの後悔を伝える
  2. 責任:お店に責任があることを認めて相手に伝える
  3. 補償:時間や代替物など、何らかの形で補償する

あればより良い5要素

  1. 説明:どうしてそうなったのかを説明する
  2. 改善:今後どう気を付けるかの具体的な方法を示す
  3. 労り:相手の気持ちへの配慮を表す
  4. 認識:自分たちの行為が不適切だったことの認識を示す
  5. 懇願:申し訳なかった、許してほしいという気持ちを伝える

-これらの要素が含まれていると、誠意が伝わる「良い謝罪」になるのですね。

川合先生:はい。口先だけで「すみません」と言っても、謝罪の効果は薄いんです。しっかりコミュニケーションをとるためには、これらの要素を意識してみてください。


要注意!悪い謝罪になってしまう「4つの要素」

-良かれと思って言った言葉で、かえって火に油を注いでしまった経験もあります……。避けるべき「悪い謝罪」についても教えていただけますか?

川合先生:良い謝罪と同様に、悪い謝罪にも「4つの要素」があります。要素だけだと少し分かりづらいので、先ほどのラーメン店の状況に当てはめた悪い例をみてみましょう。

悪い謝罪の4要素

  1. 弁解(言い訳):例「忙しくて提供順なんて考えていられなかった」
  2. 逆ギレ:例「文句つけるなら食べなくていい。出て行け!」
  3. 正当化:例「注文どおりにラーメンと餃子を出してるじゃないか、何が問題なんだ」
  4. 矮小化:例「出す順番でそんなに怒らなくても」

これらの要素が入ってしまうと、謝っているつもりでも相手の感情を逆なでしてしまう可能性が高くなります。

-たしかに、どの要素も怒っている相手の心情や立場をまったく考えてなさそうな印象で、謝罪どころか逆上させてしまう恐れがありますね。


ミスをしたらどう謝ればいい?ケース別謝罪のコツ

-良い謝罪に欠かせない要素、逆にあってはいけない要素はなんとなく把握できました。とはいえ、「どんなフレーズや謝り方が適切なんだろう……」と悩む人は多そうです。具体例を教えていただけますか。

川合先生:はい。では、ケースごとに例を紹介していきましょう。

ケース1:寝坊して、バイトのシフトに間に合わない場合

人が寝坊した様子

川合先生:「自分が100%悪い」場合は、以下のようにまずは自分のミスを認めましょう。

【すぐにやるべきこと】

  • メールや電話などで第一報
  • 自分に非があることを認め(責任)、「申し訳ありません」という謝罪の言葉を文章の最初に置く(後悔)
  • 事実を客観的に説明する(説明)
  • 具体的な改善策を示す(改善)

【連絡時の文面例】

「寝坊してしまい、申し訳ございません。昨夜、スマホの充電を忘れてしまい、目覚ましが鳴らずに起きられませんでした。今後は目覚まし時計も併用し、必ず充電を確認するようにします。今急いで向かっており、○時頃到着予定です。後ほどあらためて直接おわびさせてください」

【出勤後にやるべきこと】

  • 対面であらためて謝罪する(後悔)
  • シフト調整の迷惑に対するおわびを伝える(責任)
  • 「シフト多めに入ります」「いつでもヘルプで呼んでください」などを約束する(補償)

川合先生:このように「スマホや電車遅延のせい」にするのではなく「充電を忘れた自分の責任であること」を説明するのがポイントです。

ケース2:自分のミスでお客さまにうっかり水をこぼしてしまい、怒らせてしまった場合

ホールスタッフが水をこぼす様子

【すぐにやるべきこと】

  • タオルを持参して拭く、もしくはお客さまに差し出す(労り)
  • 汚れた料理があれば新しいものと交換する(労り)
  • 服が汚れた場合は、クリーニング代を申し出る(補償)
  • 非を認め、申し訳ない旨をきちんと伝える(後悔、責任)
  • 一人で判断できない場合は上司に相談する

【謝罪フレーズ例】

「申し訳ございません。私の不注意でこのような事態を招いてしまい、深くおわび申し上げます。すぐにタオルをお持ちします。お洋服の件についても、クリーニング代など責任を持って対応させていただきます」

川合先生:この場合は、言葉よりもまずは行動!原状回復を最優先し、きちんと謝罪したうえで、補償内容を明確にしましょう。また、あなたはお店の一員であることをお忘れなく。あなたが同僚のミスをカバーすることがあるように、同僚だってあなたをフォローしてくれるはず。一人で抱え込まないことも大事なポイントです。

ケース3:同僚のミスでお客さまに間違った商品を渡してしまい、自分が謝らなければならない場合

飲食スタッフがミスをして謝罪する様子

【すぐにやるべきこと】

  • お店として責任を認めて申し訳ない旨を伝える(責任、後悔)
  • 相手の気持ちに寄り添い不快感を解消する(労り)
  • できる範囲で補償する(補償)

【謝罪フレーズ例】

「このたびは、私どもの不手際によりご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。お客さまには非常に不快な思いをさせてしまい、スタッフ一同深く反省しております。すぐに商品をお取り替えさせていただきますが、いかがでしょうか」

川合先生:このケースは、「自分がやったことじゃないのに……」と不満に思う方もいるかもしれません。ここで大切なのは「自分のミスじゃない」という態度を絶対に出さないことです。あなたの立場は、あくまでお店の一員です。そして、お客さまが怒っているのは、お店に対して。つまり、「あなた個人を攻撃しているのではない」ことを意識してみてください。


怒られるとつい萎縮してしまう。気持ちを楽にする心構えとは?

飲食店のスタッフがほほ笑む様子

-具体例で上手な謝罪への理解度が更に上がりました。とはいえ「いざ怒られると萎縮してしまい、頭が真っ白になってしまう……」という方も多いように思います。

川合先生:お客さまはあなた個人を攻撃しているわけでも、あなたの人格を否定しているわけでもありません。怒っているのは、あくまでお店に対してです。

とするなら、バイト中はあえて「店員」という仮面をかぶっていると考えることで、心構えも変わってくるはずです。職場を「舞台」と見立て、お客さまもあなたも「出演者」の一人であると考えてみてください。

そうすると、どんなに怒られても「私自身に向けられた怒りではない」と分かりますよね。この考え方ができると、心が少し楽になり、落ち着いて謝罪もしやすくなるはずです。

また、極端な例えですが、激しく怒っている人は「欲しいものを買ってもらえなくてダダをこねている子ども」と同じだと考えてみてください。そうすると、怖がらずに「何が不満なんだろう」「私に何をしてほしいんだろう」と、考える余裕が生まれるはずですよ。

謝罪の本来の目的は「壊れた関係をもう一度つなぎ直すこと」です。謝罪の経験を通して、以下のような「これからの長い人生を豊かにしてくれるスキル」が身に付くでしょう。

  • コミュニケーション能力が向上する
  • 人間関係に自信が持てるようになる
  • 仕事だけでなく、家族や友人、パートナーとの関係にも役立つ

アルバイトは、失敗を通して成長できるチャンスの宝庫です。困ったことに直面し、頭を下げて謝罪する経験は、必ずこれからの人間関係を築くうえであなたの力になります。多少の苦い経験も、未来への投資だと思って、ぜひ前向きにがんばってください!

編集:はてな編集部
取材・文:仲奈々


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