制服や仕事着があるアルバイトの場合、職場に着いたらまず着替えの時間が発生しますよね。この記事では、着替えの時間は「労働時間」に含まれるのか含まれないのかを解説します。自分の今の勤務形態と照らし合わせてチェックしてみてください。
1.着替えの時間は労働時間に含まれる?
結論、着替えの時間は労働時間に含まれます。
労働基準法には労働時間の定義はありませんが、32条に書かれている「労働させる」という表現から、「使用者の指揮命令下にあれば労働時間にあたる」という解釈が行われています。つまり、制服に着替えるなどの準備行為が使用者から義務付けられ、または余儀なくされているときは労働時間にあたるということです。
※平成12年3月に最高裁が判決を出した「三菱重工長崎造船所事件」でも最高裁は、作業服等への着替えは使用者が従業員に対して義務付けているため、特段の事情がない限り、こうした時間は労働時間に当たるという判決を下しています。
2.バイトにありがちな「労働時間の切り捨て」はNG
アルバイトでよくあるのが「労働時間の切り捨て」問題です。
例えば午前9時~12時10分まで働いた場合、労働時間は3時間10分となります。しかし、給料を計算する際の労働時間は「15分単位」であるとし、10分を切り捨ててしまうのです。そうすると、実際に働いた時間は3時間10分であるにも関わらず、 給料に反映される労働時間は3時間だけということになります。
こうした計算方法は、賃金の未払いにあたり、違法です(労働基準法 第24条)。「うちのお店はどうだったっけ?」と疑問に思った方は、いま一度自分の職場の給与計算を確認してみてください。
3.勤務条件が改善された実例
バイトの労働時間における慣習に疑問を感じて、行動を起こした学生もいます。
【事例1】大手コンビニエンスストア
問題点
- 労働時間の切り捨て
- レジの誤差を自己負担
- 着替え時間が労働時間に含まれていない
アルバイトをしていた高校生が労働組合に加入して団体交渉を行なった結果、会社は1分単位で給料の支払いを行う義務があることを認めました。そのほか、会社は労働組合との間で「レジの誤差を自己負担する制度の廃止」「着替え時間を労働時間に含む」ことを約束。過去の未払い賃金の支払いと、これまでに自己負担したレジの誤差金額の返還はもちろん、同社で働いている全従業員に対する未払い賃金の支払いと自己負担金額の返還が行われました。
【事例2】和食レストランのチェーン店
問題点
- 労働時間の切り捨て
- 着替え時間が労働時間に含まれていない
- 従業員用の靴代2000円を最初の給料から強制的に天引き
ここでもアルバイトとして働いていた高校生が労働組合に加入して、会社と団体交渉を行ない、問題を解決しました。このケースでは、ショッピングモール内にあったレストランと、制服に着替える更衣室が離れており、この着替えと移動に毎回約8分かかっていましたが、その時間が時給に含まれておらず、給料計算も15分刻みで加算される仕組みに。更に、従業員用の靴代2000円が最初の給料から強制的に差し引かれていました。
アルバイトとして働いていた学生がしかるべき行動を起こした結果、 慣習として行われていたことが労働基準法違反であると明らかになり、職場の労働環境が改善されたのです。この結果は和食レストランのチェーン店全店に反映され、そこで働く 約4000人の就業者の労働条件の改善につながりました。
4.労働時間に関するよくある質問
ここからは、バイトにおける労働時間に関するよくある質問と回答を紹介します。
Q.バイトの着替え時間に給料は発生しますか?
制服に着替えるなどの準備行為が使用者から義務付けられている場合は労働時間に含まれるため、給料が発生します。ただし、会社から義務付けられておらず、「汚れやすい服装に自らの意志で着替える」といった場合には労働時間に該当しないので注意が必要です。
Q.タイムカードを押すのは制服に着替える前?着替えた後?
制服への着替えが会社から義務付けられている場合は労働時間に当たるため、着替える前にタイムカードを打刻するのが正しいタイミングです。会社側から「始業前に準備を整えておくのは、社会人としては当たり前のこと」などといわれるケースがあるかもしれませんが、それらはワークルール違反となります。
5.勤務環境についての相談先
なにかおかしいなと感じた場合には、そういった事態が発生した状況や日時などについてメモをとり、都道府県にある労働局の「総合労働相談コーナー」や、労働組合や弁護士等の団体が行っている労働相談(無料相談会やホットラインが開設されることもあります)などで相談してみてください。
また、コンビニやレストランチェーン店でアルバイトを使用する立場にある人は、多忙を極めることも多く、日常的な慣習を省みる余裕が持てずに、違法な状態を放置してしまっていることもあるでしょう。しかし、こうしたことがいったん表面化すると、ブランドイメージや社会的信用を毀損してしまう危険があります。使用者と従業員がお互いに気持ちよく働くことのできる職場にするためにも、この機会にぜひ一度、コンプライアンスの確認をしてみてはいかがでしょうか。
監修
緒方桂子氏 南山大学法学部教授、専門は労働法。
著書に『労働法』(有斐閣ストゥディア、共著)など。
・第53回学生生活実態調査の概要報告 大学生バイト(4)アルバイト 1.