この記事の要約
- バイトを辞める際は2週間前に伝えれば法律上は問題ない(※無期雇用の場合)
- ただし就業規則にルールが記載されている場合はそちらに従う
- 最低でも1カ月前には伝えるのがマナー
- 強く引き止められた場合は労働基準監督署に相談してみる
基本的にバイトは「辞めたくても辞められない」ということはありません。辞めるという行為は労働者に等しく認められた権利です。本記事では、「バイトを辞める旨は何日前までに伝えるべきか」「法律違反になるケースはあるのか」など、バイトの退職に関する気になるポイントを弁護士が解説します。
1.「バイトを辞める」と申し出るのは何日前まで?
前提として、労働者が「辞める」と伝え、雇用主が合意した場合は「合意退職」という扱いになります。つまり、アルバイトが「今日で辞めます」と伝え、雇用主が「分かった」と言えばそれで完結するのです。この記事で解説する法律や就業規則が問題になるのは、労働者が「辞めます」と伝えても雇用主が合意しない場合と考えてください。
【無期雇用】2週間前まで
雇用期間の定めのないアルバイト雇用の場合、法律上は「2週間前までに退職の意思を伝えれば良い」ということになっています(民法627条1項)。
また、近年は「ブラックバイト」という、アルバイトを正社員なみに働かせたり、サービス残業を強いられたりするケースがありますが、この場合法律では「労働条件が事実と違う場合、即時解除できる」決まりとなっており、即辞めることが可能です(労働基準法15条2項)。
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【有期雇用】契約期間満了日まで
有期雇用の場合は、法律上「やむをえない理由」がない限り、原則として期間満了前に辞めることはできません。ただし、雇用期間が「1年以上3年未満」の契約の場合、1年経過すると自由に退職が可能となります(労働基準法137条)。
また、有期雇用の人でも「労働条件が実態と違う」「妊娠や出産」「自身の病気や家族の介護」といった 「やむをえない理由」があれば、期間満了前に退職できます(民法628条)。
辞める意思があってもなくても、一度、契約の内容や就業規則を確認してみることは大切です。 自分が有期雇用か無期雇用かは、労働基準法に基づいて雇用主に発行が義務付けられた労働条件通知書に記載されています。自分の契約内容を知る意味でも、もらっている場合は、労働条件通知書を一度確認してみると良いでしょう。企業は労働条件通知書を発行する義務があるため、労働条件通知書が渡されていない場合は交付してもらうよう職場の責任者に相談してみてください。
バイトを辞める旨は1カ月前に申し出るのが理想
バイトを辞める際は法律上では2週間前に申し出れば問題ありませんが、基本的に1カ月前に申し出るのが理想です。バイトスタッフが辞めるとなると、業務の引き継ぎや新しいスタッフの募集などをしなければいけません。 2週間では引き継ぎや採用活動の時間が足りない可能性があるので、バイト先のことを考えると最低でも1カ月前には伝えるのがマナーと言えます。
2.法律と就業規則、どちらを守るべき?
バイトを辞める場合関係する法律や就業規則の優先順位は、以下のようになります。
- 【最優先】労働基準法
- 【2番目】就業規則
- 【3番目】民法
就業規則で「辞める場合、1カ月前までに伝える」(2カ月や3カ月の場合もあります)というルールになっている場合、民法の「2週間前まで」というルールより優先されることになります。
企業が就業規則に期限を定める理由は、「あなたの替わりとなる人を探したい」「シフトを組み直して対応する時間的余裕を確保したい」などが考えられるでしょう。優先すべきルールであると同時に、社会人のマナーとして就業規則を守ることが円満退職につながるポイントです。なお、就業規則に何も定めがない場合は、民法に定められた「2週間」が適用されます。
3.バイトを辞める旨の伝え方は?
バイトを辞める旨は店長に伝える
辞める際は社長や店長など、あなたの雇用について決める権限がある人に伝えてください。伝え方に法律的な決まりはありませんが、雇用主にしっかり辞める意思を理解させることが重要なため、可能な限り直接会って伝えるようにしましょう。
「辞める」と伝える際のワンポイント
- 店長など権限がある人に伝える
- 会って伝えるほうが誠意が伝わりやすい
なお、退職を伝えても理不尽な対応をされるような場合は、「退職の意思を伝える際の会話を録音する」「口頭で伝えた後にメールも送り確実に形に残す」「退職届を内容証明郵便で送る」といった方法が考えられます。
直接伝えて辞める理由は準備しておく
バイトを辞める際は対面で伝えるのが基本ですが、強く引き止められそうな場合や、責任者が多忙で話をする時間が取れないケースもあるでしょう。そんな時は、電話で退職の意思を伝えても問題ありません。バイトを辞めると伝える際、法律的には理由を伝える必要はありませんが、一般的には退職理由を伝えると円滑な退職手続きにつながることが多いのも事実です。
以下にバイトの退職を伝える時の例文を紹介するので、「辞める時になんて言えばいいか分からない…」という方は参考にしてください。
【例文1】就活に専念したい
「就職活動に集中するため、今月末で退職したいと思っています。こちらでのバイトを通して、大変多くの学びを得ることができました。本当にお世話になりました。ありがとうございました。」
【例文2】体調が優れない
「申し訳ありませんが、最近私の体調があまりよくなく、ホールの業務を続けることが難しくなってしまいました。急で申し訳ないのですが、〇日で退職させていただけますでしょうか。」
【例文3】学業・部活(サークル)が忙しい
「学業が非常に忙しく、バイトを継続することが難しくなってしまいました。急なお話で申し訳ありませんが、今月末をもって退職させていただきたく思っております。最終日まで全力で勤務いたしますので、ご調整お願いいたします。」
「辞めさせない」と強引に引き止められたらどうする?
退職を伝えたのち、以下のようなケースがあった場合はパワハラなどに該当する可能性があるため、遠慮なく弁護士や労基署、労働組合に相談するようにしましょう。 未成年の場合は、ご両親から職場に伝えてもらう形でも辞められるので、困ったらご両親に相談してみてください(労働基準法58条の2)。
- 「すぐには辞めさせない」と言って無理やりシフトを入れられた
- 誹謗中傷されたり、怒鳴りつけられたりした
- 就業規則にない罰金を要求された
- 「損害賠償請求する」と脅された
辞めた人に対する損害賠償請求を契約に盛り込むことは、法律で禁止されています(労働基準法16条)。契約に盛り込まれていないのに「損害賠償請求する」と脅すケースもあるようですが、労働者に対して損害賠償請求が可能なケースはほとんどないと言えるでしょう。
ただし、退職の意思表示後、2週間経過せずに出社しなくなり、引き継ぎなどを放棄して会社に損害を与えた場合は、損害賠償請求される可能性があるため注意が必要です(労働者に支払いを命じた裁判例が日本にもあります)。分からないことがあったら弁護士や労基署に相談してみてください。
4.バイトを辞めることに関するよくある質問と回答
バイトの退職に関するよくある質問は以下のとおりです。「バイトを辞めると言ったあとの過ごし方」や「今月いっぱいで辞める場合の例文」も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
Q1.辞めるまでの期間が気まずいのでギリギリに伝えても良い?
バイトを辞める際は、2週間前に伝えることが法律で定められているため、ギリギリに伝えるのは避けた方が安心です(民法627条1項)。最低で1カ月前には辞める旨を伝えましょう。また、会社の就業規則に「1カ月前に申し出ること」と記載されている場合はそちらにしたがってください。
就業規則で「退職の1年前までに伝える」となっていたら守るべき?
この場合、憲法22条で定められた「職業選択の自由」に抵触すると考えられます(憲法はどのようなルールよりも優先されます)。「6カ月前まで」と定めた就業規則が問題になった裁判において、裁判官が「憲法違反だと思う」としたケースもあったようです。 どの程度の期間なら憲法違反にならないのかは明確ではありませんが、実際には「3カ月程度」と考えて良いでしょう。3カ月を超えるような場合は、弁護士や労基署に相談してみてください。
Q2.バイトを辞めると言ってからの期間はどう過ごせば良い?
バイトを辞めると言ってからの期間は、以下のような過ごし方があります。
- 最後まで責任を持って働く
- 後輩や後任に仕事を引き継ぐ
- 退職に向けて身の回りを整理する
- 同僚にあいさつする
バイトを辞めると伝えたあとは気まずい気持ちがあり、バイトに行きたくないと思う方もいるでしょう。 しかし、給料は支払われているので最後まで責任を持って働くのがマナーです。 自分が抜けたあとに業務に支障が出ないように、後輩の育成や後任への引き継ぎをしておくのもおすすめです。バイトを辞めると言ってからの期間は、今まで以上に一生懸命働くことでより円満退社に近づくでしょう。
Q3.バイトを今月いっぱいで辞めたい場合の例文は?
バイトを今月いっぱいで辞めたい場合の例文は、以下のとおりです。
【例文1】精神的・体調不良
1週間ほど前から体調が悪く病院を受診したところ、治療に専念するようにと言われました。急で申し訳ありませんが今月いっぱいで退職させていただきたいです。
【例文2】学業が忙しくなった
来月より卒業論文の制作が始まるので、学業とバイトとの両立が難しくなってしまいます。急で申し訳ありませんが、今月いっぱいで退職させていただきたいです。
【例文3】家庭の事情
母が病気になり通院や介護が必要になりました。介護とバイトとの両立は難しいので、今月いっぱいで辞めさせていただきたいです。
バイトを今月いっぱいで辞めたい場合は、2週間前には伝えるようにしましょう。 しかし、精神的な理由や家族の介護といった「やむを得ない事情」がある場合は、月末まで2週間を切っていてもバイトを辞められます。 どちらにしても、辞めると決まった時点ですぐにバイト先に伝えましょう。
Q4.バイトを辞める際に法律違反になるケースはある?
バイトを辞める際に法律違反となるのは、使用者が退職を妨害した場合です。 退職の意思を伝えているにもかかわらず、「人が足りない」「辞めてほしくない」と言った理由で強引に引き止められた場合、法律違反になる可能性があります。 強い引き止めに合いなかなかバイトを辞められないときは、労働基準監督署に相談するのがおすすめです。
5.バイトを辞める際は1カ月前に伝えよう
バイトを辞める際は最低でも1カ月前に伝えましょう。 法律上では2週間前に伝えれば問題ありませんが、辞める際の引き継ぎや新たな人員の採用活動などを考えると少しでも早いほうが良いです。 就業規則に「1カ月前に申し出る」ことが明記されているケースもあるので、基本的には1カ月前には伝えるようにしましょう。
監修
笹山尚人氏 弁護士、東京法律事務所所属。労働事件全般(労働者側)、契約法一般、不動産取引、相続・遺言・成年後見、家族問題、借地・借家、交通事故、各種損害賠償事件、債務整理・破産・民事再生、刑事弁護などを取り扱う。 単著に「ブラック職場~過ちはなぜ繰り返されるのか」(光文社新書) 「パワハラに負けない!」(岩波ジュニア新書)など多数。
刑法
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