「失業保険をもらえる間は就職しないほうが良い」「失業保険は満額もらわないと損」などというイメージがあるかもしれませんが、アルバイト・パートでも条件を満たしていれば再就職手当を受給できます。本記事では、再就職手当の受給条件やもらえる額の計算方法などを専門家が分かりやすく解説。自分が受給条件を満たしているかどうかチェックしてみてください。
1. 再就職手当とは
再就職手当は、失業保険を受給している間に再就職が決定した際、一定の条件をクリアしていれば受給できる手当のこと。失業保険の手続きをしたハローワークで申請します。
再就職手当は、失業保険をもらっている人に対して早期の再就職を促すための手当であり、早く再就職すると給付率が上がる仕組みになっています。ただし、再就職したからといって必ずもらえるものではなく、支給の要件は多少複雑になっているため、受給するポイントを1つずつ見ていきましょう。
2. アルバイトが再就職手当を受給するための条件
アルバイトで再就職手当をもらうための要件は以下の8点です。
- (1)就職日の前日までにもらっていた失業保険の支給残日数が、所定給付日数の1/3以上ある
- (2)確実に1年以上勤務すると認められる
- (3)待期期間が満了した後に就職している
- (4)離職理由による給付制限を受けた場合、待期期間満了後1カ月の間にハローワークまたは厚生労働大臣の許可・届け出がある職業紹介事業者の紹介により就職したものである
- (5)離職前に勤務していた会社の事業主に再び雇用されていない
- (6)就職日前3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていない
- (7)採用が受給資格決定日前から内定していた事業主に雇用されたものでない
- (8)勤務時間など雇用保険の被保険者となる要件を満たす条件での雇用である
(1)就職日の前日までにもらっていた失業保険の支給残日数が、所定給付日数の1/3以上ある
再就職日の前日時点での失業保険の残り日数が所定給付日数の1/3以上あること。つまり、失業保険の受給が終わる間際になって就職しても、再就職手当を受給することはできません。
(2)確実に1年以上勤務すると認められる
再就職手当は新しい就職先で1年以上働くことが前提となっているため、非正規社員として就職した時は注意が必要です。派遣社員、契約社員、パート、アルバイトなどは契約期間が1年未満の場合があり、その際は条件から外れてしまいます。
ただし、就職先の会社に書いてもらう「再就職手当支給申請書」の記載内容によっては、たとえ雇用期間が1年未満でも受給対象となります。その中の「1年を超えて雇用する見込み」が「有」になっていれば、この要件を満たすことになるので、再就職先にはこの記載をしてもらえるか確認しましょう。
(3)待期期間が満了した後に就職している
失業保険には、受給手続きの後に7日間の待期期間があります。この7日間を過ぎた後に就職した場合に再就職手当の受給対象になります。つまり、この期間のうちに再就職が決まってしまうと、再就職手当はもらえません。
(4)離職理由による給付制限を受けた場合、待期期間満了後1カ月の間にハローワークまたは厚生労働大臣の許可・届け出がある職業紹介事業者の紹介により就職したものである
給付制限とは、待期期間後更に一定期間基本手当が支給されないことをいいます。給付制限の有無は退職理由によって決まるので確認しておきましょう。
退職理由は「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類があります。自己都合退職は、自分の都合で会社を辞めること。この場合は待機期間の7日間の後、更に2カ月の給付制限期間を過ぎないと失業保険の受給は始まりません。また、この給付制限期間の最初の1カ月間はハローワークか厚生労働大臣の許可または届け出のある職業紹介事業者の求人のみが対象となり、知人の紹介や就職サイトなどで仕事を見つけても再就職手当の受給は不可能です。更に、5年以内3回目の退職からは給付制限期間が3カ月に延びてしまうことも知っておきましょう。
一方、会社都合退職は、倒産や解雇など、文字通り会社の都合による退職です。この場合、失業保険は待機期間の7日間後、給付制限なしですぐに受給が始まります。また、仕事の見つけ方についての制限もありません。
(5)離職前に勤務していた会社の事業主に再び雇用されていない
前職と同じ会社に就職する場合は対象外となります。また、別の会社であっても役員が同じ、事業内容がほぼ一緒という企業では、やはり対象外となる可能性が高いです。
(6)就職日前3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていない
再就職手当は1回受け取ると3年間はもらえません。
(7)採用が受給資格決定日前から内定していた事業主に雇用されたものでない
受給資格決定日とは、ハローワークで離職票の提出と求職の申し込みを行った日のことを指します。これ以前に内定をもらった就職は対象外となります。
(8)勤務時間など雇用保険の被保険者となる要件を満たす条件での雇用である
失業保険に加入できる雇用形態であることが必須です。ちなみに、失業保険の被保険者になるには、週20時間以上の勤務が条件となります。
3. 再就職手当はいくらもらえる?給付額の計算方法
計算式:(1)基本手当日額×(2)支給残日数×(3)給付率=再就職手当
(1)基本手当日額
離職時の年齢 | 基本手当日額の上限 |
29歳以下 | 7,065円 |
30~44歳 | 7,845円 |
45~59歳 | 8,635円 |
60~64歳 | 7,420円 |
年齢に応じた基本手当日額の上限額(2024年8月1日~現在)
その人が1日にもらっている失業保険の金額です。原則として、離職した日の直前6カ月に支払われた、賞与などを除く賃金の総額を180で割ると算出できます。基本手当日額は、前職の給料が高い人ほど給付額も高くなっていますが、これには上限があり、毎年8月に変更されます。
(2)支給残日数
再就職した時点で残っていた失業保険を受け取れる日数のこと。失業保険の総支給日数を「所定給付日数」といい、例えば所定給付日数が120日の人が失業保険をもらいはじめて30日後に就職した場合、「120-30=90」で支給残日数は90日になります。
(3)給付率
いつ再就職したかによって給付率は変わります。
所定給付日数 | 支給残日数 | |
支給率60% | 支給率70% | |
90日 | 30日以上 | 60日以上 |
120日 | 40日以上 | 80日以上 |
150日 | 50日以上 | 100日以上 |
180日 | 60日以上 | 120日以上 |
210日 | 70日以上 | 140日以上 |
240日 | 80日以上 | 160日以上 |
270日 | 90日以上 | 180日以上 |
300日 | 100日以上 | 200日以上 |
330日 | 110日以上 | 220日以上 |
360日 | 120日以上 | 240日以上 |
- 失業保険の受給期間を2/3以上残して就職した場合⇒70%
- 失業保険の受給期間を1/3以上残して就職した場合⇒60%
- 失業保険の受給期間を1/3未満残して就職した場合⇒0%
※「基本手当日額」と「所定給付日数」は、失業保険を申請する際にもらった雇用保険受給資格者証に記載されています。
4. 再就職手当の支給イメージ
ここからは、実際の支給イメージを紹介します。
受給資格決定日から50日目に就職した場合
受給資格決定日から50日目に就職した場合
⇒4000円×228日×70%=63万8400円になります。
受給資格決定日から100日目に就職した場合
受給資格決定日から100日目に就職した場合
⇒4000円×178日×60%=42万7200円になります。
待期期間は受給資格決定日を含めて7日間。そのため、就職日の前日までの支給日数は50日目に就職する場合は42日分で、100日目に就職する場合は92日分となります。 比較してみると、想像以上に金額の差が大きいことに気づくはずです。この事例を参考に、自分がいつ就職するとどのくらいもらえるかを見積もっておくと良いでしょう。
5. 再就職手当の申請→受給までの流れ
再就職手当の申請はハローワークにて、就職日の翌日から1カ月以内に行います。再就職手当の申請から受給までの一般的な流れは以下のとおりです。
- (1)「採用証明書」を準備する(ハローワーク公式サイトからダウンロード可能)
- (2)転職先の会社に「再就職手当支給申請書」を提出して記入してもらう
- (3)ハローワークに「採用証明書」「再就職手当支給申請書」「雇用保険受給資格者証」を提出
再就職手当の手続きは、転職先の職場とハローワークでのやりとりが必要なため、手当がもらえるのは、転職してから2カ月前後になります。
6. 再就職手当の受給対象外だった場合は?
アルバイトやパートなどで再就職した際、契約が1年未満となり再就職手当の対象から外れてしまうことがあります。その場合、再就職手当に比べると支給額は少なくなりますが、「就業手当」の受給が可能です。この手当は失業保険の支給残日数が所定給付日数の1/3以上かつ45日以上あり、一定の条件をクリアするともらえます。
7. アルバイトの再就職手当についてよくある疑問
最後に、アルバイト・パートが再就職手当をもらうときによくある疑問に答えます。
Q.再就職手当はアルバイトだと減額される?
再就職手当はアルバイトだからといって減額されることはありません。ただし、再就職手当の支給額は、失業保険の受給期間や収入に基づいて決定されます。そのため、前職のアルバイトの期間が短く、収入が低い場合には、再就職手当の支給額も少なくなる場合があります。
Q.再就職手当の待機期間にバイトしたらもらえない?
再就職手当の待機期間中にアルバイトを行う場合、再就職手当の受給資格が失われる可能性が高いでしょう。待機期間は失業を認定する期間として設定されているため、待機期間終了後は、週20時間未満のアルバイトであれば就業可能です。週20時間を超えた場合、雇用保険の対象となり、再就職とみなされる場合があるため注意が必要です。
Q.再就職手当は扶養に入っているパートでも貰える?
再就職手当は扶養内のパートであっても条件を満たせば受給可能です。再就職手当の支給条件は、雇用保険法や雇用保険の規定によって定められていますが、これらの規定には、扶養に関する制約はありません。そのため、再就職手当の支給は、雇用保険の加入状況や一定の条件を満たしているかどうかによって決まります。
Q.再就職手当の「雇用期間の定めあり」とは?
転職先との雇用契約において、一定の期間が定められていることを指します。「雇用期間の定めなし」の場合、雇用に期限がないため、再就職手当の条件を満たしていることになります。ただし、「雇用期間の定めあり」の場合でも、「3カ月で原則更新」など、1年以上の就業見込みがある場合には支給対象になる場合もあります。
Q.再就職手当は雇用保険なしのアルバイトには支給されない?
再就職手当は、雇用保険に加入している方が対象となるため、雇用保険に加入していないアルバイトの方には支給されません。
8. 再就職手当に関する本記事のまとめ
再就職手当は、条件を満たしていれば、アルバイトやパートでも受け取ることが可能です。給料に加えて受給できるので、失業保険だけの生活より収入が安定でしょう。基礎知識をしっかりと押さえて、良い再就職のスタートを切ってください。
取材協力・監修
あすか社会保険労務士法人
特定社会保険労務士 大東 恵子(おおひがしけいこ)氏