「扶養内でバイトしたいけど、年収はいくらまで?」「103万円の壁って何?」そんな疑問を持つ学生や主婦の方に向けて、扶養の仕組みと注意点をわかりやすく解説します。専門家による税法上・社会保険上の扶養の違いや、年収ごとの影響、扶養から外れた場合の変化についても紹介しているので参考にしてみてください。
扶養とは?税法上と社会保険上の違い
扶養控除とは、扶養する親族がいる人が一定額の控除を受けられる制度です。子供や親などを養っていると生活費の負担が大きくなるため、扶養者の税金の負担を減らすことを目的に設けられました。「扶養」は親族からの経済的援助を指し、扶養している人は扶養者、扶養を受けている人は被扶養者と呼ばれています。
税法上 | 社会保険上 | |
対象制度 | 所得税・住民税 | 健康保険・年金 |
年収の目安 | 103万円以下(給与収入) | 130万円未満(見込み年収) |
判定方法 | 年末時点の年収 | 今後1年間の見込み収入 |
控除・免除 | 扶養者の税金が軽くなる | 被扶養者の保険料が不要 |
交通費の扱い | 含まない | 含む |
扶養には所得税や住民税などの「税法上の扶養」と、年金や健康保険などの「社会保険上の扶養」があるため、それぞれの違いを把握しましょう。
税法上の扶養|103万円の壁とは
税法上の扶養控除は、被扶養者の合計所得金額が48万円以下(給与収入は103万円以下)であることが条件です。これを超えると所得税が発生し、扶養者の控除が受けられなくなります。
なお、合計所得金額は12月末時点での状況で判断され、その年の1月から12月までの年収で計算されます。基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円となっているため、「48万円+55万円=103万円」が税法上の扶養控除を受けられる年収基準とされており、「年収103万円の壁」といわれています。
社会保険上の扶養|130万円の壁と106万円の条件
社会保険上の扶養は、年収130万円未満であることが条件です。また、被扶養者が社会保険適用拡大の対象となる事業場で働いており、以下の要件すべてに該当する場合は、年収106万円を超えると社会保険の加入が必要になります。
※60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障がい者の場合は年収180万円未満
【社会保険の適用条件】
- 従業員の人数が51人以上
- 1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満
- 所定内賃金が月額8.8万円以上
- 2カ月を超える雇用見込みがある
- 学生でないこと
扶養における年収の計算方法は税法上か社会保険上かで異なり、社会保険上の扶養の年収は交通費を含みますが、税法上の扶養では交通費を含みません。また、税法上の扶養の年収は対象となる年の年末時点で判断されるのに対し、社会保険上の扶養の年収は、収入見込み額で判断されます。
参照:パート・アルバイトの皆さま | 社会保険適用拡大 特設サイト(厚生労働省)
配偶者控除や配偶者特別控除との違い
配偶者控除 | 配偶者特別控除 | |
配偶者の所得 | 48万円以下 | 48万円超~133万円以下 |
控除額 | 最大38万円(70歳以上は48万円) | 最大38万円 |
扶養者の年収 | 1000万円以下 | 1000万円以下 |
配偶者控除配・偶者特別控除は、配偶者がいる場合に所得控除が受けられる制度です。ただし、配偶者控除は配偶者の合計所得金額が48万円以下、配偶者特別控除は配偶者の合計所得金額が48万円超~133万円以下と年収基準が異なり、扶養者の合計所得金額は1,000万円以下と定められています。
控除額は最大で38万円、70歳以上の場合は最大48万円ですが、適用を受ける扶養者および配偶者の合計所得金額に応じて段階的に変わります。控除対象となる配偶者の要件は以下のとおりです。
(1)民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
参照:No.1191 配偶者控除(国税庁)
参照:No.1195 配偶者特別控除(国税庁)
扶養控除の対象となるための要件
以下は、税法上の扶養と社会保険上の扶養の要件について、表にまとめたものです。
所得税の扶養 | |||
扶養控除 | 配偶者控除 | 配偶者特別控除 | |
納税者の所得制限 | 無 | 有 1,000万円以下 |
有 1,000万円以下 |
人数制限 | 無 | 有 1人 |
有 1人 |
扶養親族 | 6親等以内の血族・3親等以内の姻族 | 配偶者(事実婚は含まない) | 配偶者(事実婚は含まない) |
年齢制限 | 16歳以上 | 16歳以上 | 16歳以上 |
所得 | 年間48万円以下 (給与収入のみの場合は、103万円以下) |
年間48万円以下 (給与収入のみの場合は、103万円以下) |
年間所得が48万円を超えて133万円以下 (給与収入のみの場合は、103万円を超えて約201万6千円未満) |
社会保険(健康保険)の扶養 | |
扶養者(被保険者)の所得制限 | 無 |
人数制限 | 無 |
被扶養者(同居不要、被保険者により主として生計を維持されていること) | 直系尊属・配偶者(事実婚含む)・子・孫(兄弟姉妹) |
被扶養者(要同居+被保険者により生計を維持されていること) | 上記以外の3親等以内の親族・内縁関係の配偶者の父母および子 |
被扶養者の年齢制限 | 75歳未満(後期高齢者医療制度の被保険者とならない方) |
収入 | 年間130万円未満(60歳以上または障がい者の場合は、年収180万円未満)かつ、同居の場合・・・扶養者(被保険者)の年収の半分未満であること 別居の場合・・・扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であること |
扶養控除の該当者
扶養控除を受けられる控除対象扶養親族は、以下の条件を満たす必要があります。
扶養親族に該当する人の範囲
扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡しまたは出国する場合は、その死亡または出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人です。 (注)出国とは、納税管理人の届出をしないで国内に住所および居所を有しないこととなることをいいます。
(1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。 (給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
6親等以内の血族および3親等以内の姻族というと、総祖父母や高祖父母、兄弟姉妹の曾姪孫など、かなり広い範囲が対象となります。
また、生計を一緒にしていることが条件ですが、同居していない場合は仕送りなどで経済的支援をしているのであれば、扶養の対象と判断されることもあります。
非居住者の場合
国内法により、国内に住所がある人、または国内に1年以上住んでいる人を「居住者」、日本以外の外国に住んでいる人は「非居住者」と定義されています。 非居住者の扶養控除に関する適用については、令和2年度(2020年)の税制改正により、令和5年(2023年)以降の所得税について以下の条件のいずれかを満たせば、非居住者でも控除対象となる扶養親族として認められています。
- 年齢が、その年の12月31日時点で16歳以上30歳未満の人
- 年齢が、その年の12月31日時点で70歳以上の人
- 年齢が、その年の12月31日時点で30歳以上70歳未満かつ
- 留学して国内に住所がない人
- 障がい者
- 納税者(扶養者)から、その年の生活費または教育費として年間38万円以上の支援を受けている人
扶養控除の控除額はどれくらい?
扶養控除は、扶養親族の年齢や同居の有無の条件によって4種類に分けられます。種類ごとの控除額は表のとおりです。
区分 | 年齢条件(年末時点) | 控除額 | 備考 |
一般の控除対象扶養親族 | 16歳以上19歳未満、23歳以上70歳未満 | 38万円 | 通常の扶養親族 |
特定扶養親族 | 19歳以上23歳未満 | 63万円(※2025年からは150万円まで段階的に控除) | 大学生などが該当。2025年以降は「特定親族特別控除」により年収150万円まで控除対象 |
老人扶養親族 | 70歳以上 | 48万円 | 同居していない場合も含む |
老人扶養親族(同居老親等) | 70歳以上で扶養者と同居している | 58万円 | 同居している親などが対象 |
70歳以上の親族を扶養する場合の「同居」は、例えば病気などの治療で長期間入院している場合は同居に該当しますが、老人ホームに入所している場合は同居とみなされません。
アルバイト・パートで扶養から外れたらどうなる?
被扶養者がアルバイトやパートで一定の収入を得ると、扶養から外れることになります。
年収103万円を超えたら扶養控除の対象外に
税法上の扶養や社会保険上の扶養内で働いている場合は、各種税金の支払いや健康保険料の支払いがなく、更に配偶者の場合は国民年金保険料を納める必要がありません。しかし、扶養内で働いている人の年収が103万円を超えると扶養控除の対象外となり、所得税がかかります。
また、配偶者控除を受けている人は、給与年収が103万円を超えると配偶者控除の対象外となります。その代わり配偶者特別控除を受けられますが、給与年収が150万円を超えると控除額が段階的に減るため注意が必要です。
年収106万円・年収130万円は社会保険上の扶養から外れる年収ラインとなり、超えると社会保険料を支払うことになります。所得税や社会保険料の支払いが発生すると、手取り額が少なくなるため、アルバイトやパートで働く場合は、この年収ラインを意識して働くケースが多いでしょう。
- 年収103万円の壁:超えると、被扶養者は税法上の扶養から外れ、所得税がかかる。また、扶養者は扶養控除が受けられなくなり、配偶者については配偶者控除が受けられなくなり配偶者特別控除を受けることになる。
- 年収106万円・130万円の壁:企業の規模によっては年収106万円を超えると社会保険上の扶養から外れる。年収130万円を超えると、企業の規模に関わらず、社会保険上の扶養から外れ、社会保険料の支払いが発生する。
- 年収150万円の壁:税法上の壁で、配偶者特別控除の最大額38万円が控除できる年収額。150万円を超えると、扶養者が受けられる配偶者特別控除の控除額が段階的に減り、被扶養者の年収が201万6千円を超えると、配偶者特別控除の対象外になる。
参照:年収の壁・支援強化パッケージ(厚生労働省)
自分(被扶養者)で支払う税金が発生する
所得税は収入が増えるほど税率が高くなり、社会保険料も基本的には収入が増えるとその分高くなるため、扶養から外れると自分(被扶養者)で支払う税金が多くなるでしょう。
親族(扶養者)が支払う税金が高くなる
扶養から外れると、扶養者・被扶養者共に支払う税金が高くなり、税負担が大きくなります。 扶養の範囲で働いて少しでも節税するか、それとも扶養から外れてある程度の収入を得ながら家計を支えるか、よく話し合ったうえで決めるのが良いでしょう。
控除を受けられる人のチェックリスト
最後に、控除を受けられる人のチェックリストを紹介します。
受けられる控除は右記のいずれか | 所得税の配偶者控除を受けられる人 | ✓ |
---|---|---|
扶養者の年間収入が1,000万円以下である | □ | |
被扶養者の年間所得48万円以下である (給与収入のみの場合は年間収入103万円以下) |
□ | |
生計を共にしている | □ | |
民法上の規定で認められた配偶者である | □ | |
青色専従者給与を受けていないまたは白色専従者ではない | □ | |
所得税の配偶者特別控除を受けられる人 | ✓ | |
扶養者の年間収入が1,000万円以下である | □ | |
被扶養者の年間所得48万円超~133万円以下である (給与収入のみの場合は年間収入103万円を超えて約201万6千円未満) |
□ | |
生計を共にしている | □ | |
民法上の規定で認められた配偶者 | □ | |
青色専従者給与を受けていないまたは白色専従者ではない | □ | |
配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと(夫婦どちらかのみ適用可) | □ | |
配偶者が、「給与所得者の扶養控除等申告書または従たる給与についての扶養控除等申告書」に記載された「源泉控除対象配偶者がある居住者」として、源泉徴収されていないこと。(※1) | □ | |
配偶者が、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」に記載された「源泉控除対象配偶者がある居住者」として、源泉徴収されていないこと。(※1) | □ | |
所得税の扶養控除を受けられる人 | ✓ | |
被扶養者の年間所得48万円以下である (給与収入のみの場合は年間収入103万円以下) |
□ | |
生計を共にしている | □ | |
6親等以内の血族・3親等以内の姻族 | □ | |
青色専従者給与を受けていないまたは白色専従者ではない | □ |
社会保険(健康保険)の被扶養者になれる人 | ✓ |
年間収入130万円未満である(60歳以上または障がい者の場合は、年間収入180万円未満)かつ、 同居の場合・・・扶養者(被保険者)の年収の半分未満であること 別居の場合・・・扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であること |
□ |
配偶者である(事実婚含む) | □ |
直系尊属・子・孫・兄弟姉妹である | □ |
上記以外の同居をしている3親等以内の親族である | □ |
※所得とは、収入から必要経費を引いたものです。給与所得のみの場合【収入(給与)-給与所得控除額(必要経費)=給与所得】
扶養控除の年収ラインを理解して働こう
扶養内で働くと扶養控除の適用によって税負担が軽減されます。また、扶養内で働く人だけでなく、扶養している親族にとっても節税効果があります。
扶養内で働くことを意識するのであれば、税法上の扶養の年収ラインである103万円、社会保険上の扶養の年収ラインである106万円・130万円を意識しましょう。アルバイトやパートで働く際は、扶養控除の年収ラインを意識して収入額を調整してみると良いかもしれません。
監修者
アイリス税理士法人 理事長
税理士
城 行永(じょう ゆきひさ)氏
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