就職活動においてよく聞かれる「学生時代に力を入れたこと」(ガクチカ)で、「アルバイトの経験」をアピールする学生も多いはず。京都先端科学大学の三保紀裕教授いわく、アルバイト経験は自己PRの材料としてだけでなく、就職活動そのものを成功に導く可能性もあるそうです。ということで、アルバイト経験から得られるメリットや、ガクチカで効果的にアルバイト経験をPRするためのポイントを三保先生に教えてもらいました。就職活動に生かせる話が満載です!
【三保紀裕先生のプロフィール】
京都先端科学大学経済経営学部教授。専門はキャリア教育・職業心理学。大学ではキャリア教育科目を担当する傍ら、「大学生の将来に役立つ情報を提示したい」という思いから「学校から職業への移行」をテーマに研究を行う。心理学の手法を使いながら、学生時代のどのような経験が将来的なキャリアにプラスに働くのかを探求している。
1,000人の学生に聞いて分かった「アルバイト経験で得られるメリット」
“アルバイトを通じて社会の仕組みや就労の楽しさを知り、キャリア意識と自己効力感が高まる”
-三保先生は「大学生のアルバイト」に関する研究論文(※)で、アルバイト経験が学生にもたらすメリットを発表されています。具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
※『大学生におけるアルバイト観とキャリア選択での自己効力感、キャリア意識の関連』
三保先生:研究のなかで、アルバイト経験がある全国の大学1年生~4年生約1,000人を対象に「何かしらのプラス要素があったか」についてアンケート調査を行ったところ、以下のことが分かりました。
- アルバイトは「社会」を知る手段の一つであり、働くことを「楽しむもの」と捉えている学生が一定数いた
- アルバイトを「社会」を知る手段と捉えることで、職業情報の収集や多様な人との出会いにプラスに働く
- 働くことを「楽しむもの」と捉えることで、自分自身の将来の目標を描き、具体的な計画や行動に移すことにもつながる
このように「社会を知る手段」や「楽しむもの」など、ポジティブな意識でアルバイトを経験することは、今後の職業選択を成功に導くためのキャリア意識や行動の自信(自己効力感)につながると考えられます。こういったキャリア意識や自己効力感は、就職活動においてもポジティブな影響をもたらす可能性が高いでしょう。
就職につなげるため、アルバイトで意識しておくといいこと
“与えられた仕事だけでなく「組織で働く」ことを意識しよう”
-「アルバイト経験を就職に生かしたい」と考えている学生は、どんなことを意識して働くと良いでしょうか。
三保先生:「組織で働いている」という視点です。おそらく、多くの学生は「小遣い稼ぎ」や「家計補助」などの「収入」を目的にアルバイトを始めているのではないでしょうか。
実際、大学生のアルバイトについて調査した資料でも「シフトの融通がきく」「自宅から近い」「給料が高い」などがアルバイト先を探す条件の上位を占めており、「仕事内容」そのものにはあまり意識が向いていないことが分かります。
しかし、仕事内容や一緒に働くメンバーに興味を持つことで、働くことそのものへのモチベーションが高まり、意義を感じるようになるはず。仕事を楽しむことができれば、次第に視野が広がり、働き方やメンバーとの関わり方にも意識を向けられるようになるのではないでしょうか。
-「与えられた仕事」ではなく、「組織としての働き方」に意識を向けるということですね。
三保先生:はい。与えられたミッションの周りにある仕事や人の動きにも意識を向けてみてください。
例として飲食店のアルバイトで考えてみましょう。
「フロアを担当するアルバイト」として採用された場合、「お客さまの注文を受ける」「料理を運ぶ」「レジで会計を行う」などが「与えられたミッション」になると思います。
しかし、店内にはフロア担当以外にもキッチンで料理を作る人、バックヤードで材料や備品を補充する人など、さまざまな人と仕事が存在し、連携することで店の営業が成り立っています。
与えられた仕事だけをこなすのではなく「チームで協力して仕事をしている」と認識することで、「他のメンバーとどのように関わりを持ち、どのように連携して働くか」が自覚でき、自己効力感やキャリア意識が更に高まっていくはずです。
ガクチカでアルバイト経験を魅力的にPRするには?
“「何を達成したのか」ではなく「どのように貢献したか」を伝えよう”
-就職活動の自己PRで、学生時代に力を入れていたこと(通称ガクチカ)としてアルバイト経験をアピールする人も多いです。より魅力的にPRするためにはどうすれば良いでしょうか。
三保先生:「何をしたか」ではなく「どのように貢献したか」に意識を広げ、PRポイントを探ってください。ガクチカでアルバイトをアピールする際、「アルバイトリーダーになった」といった経験だけを話している学生がほとんどです。
しかし、就職活動では「組織にどのようにコミットし、貢献してくれるか」が見られます。そのため「アルバイトリーダーになったこと(=達成したこと)」よりも、「アルバイト先でどのようにメンバーと関わり、どのように業務を行ったか(=過程や達成後の働き方)」を伝えたほうが良いでしょう。
仕事内容においても同じで「アルバイト先で任された仕事の内容」より「仕事を成し遂げるために、どのように周囲と連携して頑張ったのか」を企業側は見たいはず。組織のなかで自分がどのように貢献できたかをアピールできれば、画一的なガクチカと差別化できると思います。
【三保先生に聞いたガクチカの書き方】
<例文>
私が学生時代に最も力を入れたのは、4年間続けた飲食店でのアルバイトです。3年目にバイトリーダーに昇進した私は、当時頻発していたヒューマンエラーによるオーダーミスの改善に取り組みました。フロア担当や厨房担当と何度も相談を重ね、ミスを減らすために、全員で注文を声に出して確認する仕組みを導入しました。その結果、オーダーミスを50%以上削減することに成功し、業務効率が大幅に向上しました。この経験を通して、スタッフ内でのコミュニケーションの大切さを学ぶことができたと実感しています。入社後も積極的にチームメンバーとコミュニケーションを取りながら、会社の成長に貢献したいです。
<ポイント>
具体性を出すだけでなく、どのように周囲と連携して頑張ったのか、が伝わるようにすると良いのではないでしょうか。具体的な数字や時期(時間)が入れられるのであれば、より効果的です。
まとめ
-あらためて、アルバイト経験を就職活動につなげるために大切なことを教えてください。
三保先生:繰り返しになりますが「組織への意識」を大切にしてください。どんな仕事も1人では成り立ちません。「自分が成し遂げたこと」の背景には、必ず他の人の働きがあります。広い視野でアルバイトに取り組めば、社会性だけでなく「仕事を楽しむためのマインド」も身に付けられるはず。ぜひ、アルバイトの経験を有意義なものにしてもらえたらと思います。
取材・文/佐藤 有香
編集/はてな編集部