この記事の要約
- 最低賃金以下で働くのは違法
- 2024年10月に更新された全国の平均最低賃金は1,055円
- 正社員の時給は「月給÷1ヶ月間の所定労働時間」で計算可能
- 研修期間中は最低賃金以下で働いて問題ない
最低賃金法によって、最低賃金以上の賃金を支払わないといけないことが決まっているので、最低賃金以下で働くのは違法です。
引用元:最低賃金法 | e-Gov法令検索
正社員やパート・バイトも含めてすべての労働者に、最低賃金が適用されます。バイトを探す際には、最低賃金以上の時給が設定されているか確認してから応募しましょう。マイナビバイトでは、最低賃金以上で働ける高時給のバイトの求人がチェックできます。
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あなたがバイトを探すとき、どんなことをチェックしますか?仕事内容や勤務地、勤務時間などいろいろありますが、なかでも「時給」は重要なポイントですよね。
バイトを含めた働く人の生活を保障するため、国は賃金の最低額である「最低賃金」を定めています。最低賃金は毎年変わるため、知らない間に自分の時給がそれを下回っていることもあるかもしれません。そんな時はどうしたらいいのか、労働法の専門家のアドバイスと共に解説していきます。
1. 最低賃金制度とは
雇う側はできるだけ多くの利益を得るため、労働者に支払う賃金を切り詰めたいと考えています。しかし、それが行き過ぎると、働く人が満足に生活できなくなるほど、賃金が下がってしまうことになりかねません。また、一部の会社が不当に安い賃金しか支払わなくなると、会社間の公正な競争を妨げることにもなります。
こうした事態を防ぐために、国は働く人の賃金の最低基準を1959年に導入しました。これが「最低賃金」制度です。具体的な最低賃金の額は都道府県ごとに決められ、毎年10月頃に改定されます。例えば東京都の場合、近年では、毎年20円~50円ほど上がっています。
アルバイトの最低賃金とは
アルバイトの最低賃金とは、最低賃金法にもとづいて定められた最低限度の賃金のことです。 雇用者は労働者に最低賃金以上の賃金を支払わなければならず、これは最低賃金法第4条に定められています。
(最低賃金の効力) 第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。 引用元:最低賃金法 | e-Gov法令検索
最低賃金法はアルバイトを含むすべての労働者が対象で、雇用形態が異なっていても公平に適用されます。 ここからは、最低賃金の種類と試用期間の賃金について詳しく解説します。
最低賃金の種類は「地域別最低賃金」「特定最低賃金」の2つ
国が定めている最低賃金の種類は「地域別最低賃金」「特定最低賃金」の2つです。「地域別最低賃金」とは都道府県ごとに定められている最低賃金で、適用されるのは都道府県内で働くすべての労働者と使用者です。 労働者の生計費や事業者の賃金支払能力などを考慮して金額が定められ、毎年10月に改定される傾向があります。 「特定最低賃金」とは特定の産業に設定されている最低賃金で、地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金が必要だと認められた産業に設定されています。 地域別最低賃金と同時に適用される場合、雇用者は高いほうの最低賃金額を採用しなければなりません。
アルバイトの試用期間中は「減額特例制度」で最低賃金を減額できる
アルバイトの試用期間中も最低賃金が適用されますが「減額特例制度」を使えば減額が可能です。 減額特例制度とは、最低賃金法第7条にもとづいて労働能力やその他の事情を考慮して最低賃金額を減額する制度です。 最低賃金法第7条には、対象となる労働者が次のように規定されています。
(最低賃金の減額の特例) 第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。 一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者 二 試の使用期間中の者 三 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能およびこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの 四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者 引用元:最低賃金法 | e-Gov法令検索
条文の「二 試の使用期間中の者」は、アルバイトを含む試用期間中の労働者を指します。 特例許可を申請すれば最長6カ月間上限20%まで減額が可能ですが、申請しなければ試用期間といえども通常の最低賃金を守る必要があります。
最低賃金の対象とならない賃金
最低賃金の対象となるのは、基本的な賃金として毎月支払われるものです。実際に支払われる賃金から、臨時的な手当などを除外したものが最低賃金となります。
【最低賃金の対象とならない賃金】
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当および家族手当
2. 最低賃金を下回る金額での勤務は違法
最低賃金法第4条は、会社が人を雇う際に、働く人に対して最低賃金以上の賃金を支払うことを義務付けています。この法律は雇用形態にかかわらず働くすべての人に適用されるため、バイトで働いている人に対しても、会社は最低賃金以上の賃金を支払わなくてはなりません。
最低賃金法 第四条
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
例えば、最低賃金で週に15時間働く人が、改定幅が+25円だったにもかかわらず改定前の条件のまま半年間働かされたとしたら、本来支払われるべき賃金よりも9,000円低い額しか支払われないことになります(25円×15時間×4週間×6カ月=9,000円)。これは最低賃金法に照らし合わせると「違法」になります。
また、同法第40条では、会社が従業員(バイトを含む)を最低賃金未満で働かせた場合、50万円以下の罰金が課せられることが定められています。
最低賃金法 第四十条
第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金および船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。
第4条に違反している職場の8割はパートやアルバイトの雇用形態で発生し、業種別では「宿泊業・飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」が多くなっているといいます。こうした業種は高校生や大学生に人気のアルバイトです。一度、自分の時給が今の最低賃金を上回っているか確認してみましょう。
3. 正社員が最低賃金以下で働いているかどうかを確認する方法
月給制で働く正社員が最低賃金を調べるには、以下の計算式を使用します。
月給÷1カ月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額) 【具体例】 A県で働く労働者の例を見てみましょう。
基本給 150,000円
職務手当 30,000円
通勤手当 5,000円
時間外手当 35,000円
ーーーーーーーーーーーーーー
合計 220,000円
年間所定労働日数:250日
1日の所定労働時間:8時間
A県の最低賃金:1,000円/時給
(1)賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は通勤手当、時間外手当のみで、職務手当は除外されません。
220,000円-(5,000円+35,000円)=180,000円
(2)最低賃金対象額を時給に換算し、A県の最低賃金額と比較します。
(180,000円×12カ月)÷(250日×8時間)=1,080円
A県の最低賃金1,000円を上回っていることがわかります。
【給与形態別】アルバイトの最低賃金の計算方法
アルバイト先の賃金が適正か確認するための、最低賃金の計算方法を解説します。 計算方法は給与形態で異なり、各計算方法は下表のとおりです。
給与形態 | 計算方法 |
---|---|
時給制 | 時間給 (※計算不要) |
日給制 | 日給÷1日の所定労働時間 (※特定最低賃金が適用される場合、日給≧日額の最低賃金) |
月給制 | 月給÷1カ月の平均所定労働時間 |
出来高払制を含む請負制 | 賃金の総額÷総労働時間 |
アルバイトが時給制の場合は計算不要で、時間給をそのまま最低賃金と比較できます。 他の3つの給与形態に関しては、具体例を交えて更に詳しく解説します。
日給制の場合の最低賃金
日給制のアルバイトの場合「日給÷1日の所定労働時間」で算出した金額を最低賃金と比較します。 算出した金額が、各都道府県で定められている最低賃金額以上であれば問題ありません。 地域最低賃金よりも水準の高い特定最低賃金が適用される産業の場合は、特定最低賃金が優先されます。
▼日給の計算例
「日給10,000円、8時間労働」の場合、日給を1日の所定労働時間で割るため計算式は10,000÷8=1,250円です。 1,250円が最低賃金以上であれば適切な賃金といえます。
月給制の場合の最低賃金
月給制の場合は「月給÷1カ月の平均所定労働時間」で計算し、最低賃金以上かを確認します。 最低賃金の計算時に注意したい点は対象とならない手当などがあることで、具体的な対象・対象外の手当などは下表のとおりです。
最低賃金の対象 | 対象外 |
---|---|
基本給 職務手当(他、諸手当) |
時間外割増賃金 休日割増賃金 深夜割増賃金 賞与 通勤手当 家族手当 結婚手当 精皆勤手当 など |
参考:最低賃金の対象となる賃金|厚生労働省 最低賃金の対象は毎月支払われる基本的な賃金で、実際に受け取る賃金から対象外の手当などをのぞいたものを計算の対象とします。
▼月給の計算例
「月給200,000円、年間労働日数250日、1日の労働8時間」の場合、月給÷1カ月の平均所定労働時間で算出するので(200,000円×12カ月)÷(250日×8時間)=2,400,000÷2,000=1,200円です。 1,200円が最低賃金以上であれば問題ありません。
出来高払制を含む請負制の場合の最低賃金
アルバイトが出来高払制を含む請負制の場合、最低賃金は「賃金の総額÷総労働時間」の計算式で算出
▼出来高払制を含む請負制の計算例
「総賃金が2,000円、総労働時間が2時間」の場合、賃金の総額を総労働時間で割るため2,000÷2=1,000円です。 1,000円が最低賃金以上であれば適切なアルバイトといえるでしょう。
4.【2024年最新版】全国の最低賃金一覧|東京や大阪は上がる?
全国の最低賃金を都道府県別に一覧表で紹介します。 2024年(令和6年)10月1日から下旬の間で、すべての地域の最低賃金が引き上げられます。発効前と発効後の最低賃金は下表のとおりです。
▼北海道・東北
都道府県 | 新・最低賃金 ※2024年(令和6年) 発効後 |
旧・最低賃金 ※2024年(令和6年)9月時点 |
---|---|---|
北海道 | 1,010円 | 960円 |
青森 | 953円 | 898円 |
岩手県 | 952円 | 893円 |
宮城県 | 973円 | 923円 |
秋田県 | 951円 | 897円 |
山形県 | 955円 | 900円 |
福島県 | 955円 | 900円 |
▼関東
都道府県 | 新・最低賃金 ※2024年(令和6年) 発効後 |
旧・最低賃金 ※2024年(令和6年)9月時点 |
---|---|---|
茨城県 | 1,005円 | 953円 |
栃木県 | 1,004円 | 954円 |
群馬県 | 985円 | 935円 |
埼玉県 | 1,078円 | 1,028円 |
千葉県 | 1,076円 | 1,026円 |
東京都 | 1,163円 | 1,113円 |
神奈川県 | 1,162円 | 1,112円 |
▼中部
都道府県 | 新・最低賃金 ※2024年(令和6年) 発効後 |
旧・最低賃金 ※2024年(令和5年)9月時点 |
---|---|---|
富山県 | 998円 | 948円 |
石川県 | 984円 | 933円 |
福井県 | 984円 | 931円 |
新潟県 | 985円 | 931円 |
山梨県 | 988円 | 938円 |
長野県 | 998円 | 948円 |
岐阜県 | 1,001円 | 950円 |
静岡県 | 1,034円 | 984円 |
愛知県 | 1,077円 | 1,027円 |
▼近畿
都道府県 | 新・最低賃金 ※2024年(令和6年) 発効後 |
旧・最低賃金 ※2024年(令和6年)9月時点 |
---|---|---|
三重県 | 1,023円 | 973円 |
滋賀県 | 1,017円 | 967円 |
京都府 | 1,058円 | 1,008円 |
大阪府 | 1,114円 | 1,064円 |
兵庫県 | 1,052円 | 1,001円 |
奈良県 | 986円 | 936円 |
和歌山県 | 980円 | 929円 |
▼中国・四国
都道府県 | 新・最低賃金 ※2024年(令和6年) 発効後 |
旧・最低賃金 ※2024年(令和6年)9月時点 |
---|---|---|
鳥取県 | 957円 | 900円 |
島根県 | 962円 | 904円 |
岡山県 | 982円 | 932円 |
広島県 | 1,020円 | 970円 |
山口県 | 979円 | 928円 |
徳島県 | 980円 | 896円 |
香川県 | 970円 | 918円 |
愛媛県 | 956円 | 897円 |
高知県 | 952円 | 897円 |
▼九州・沖縄
都道府県 | 新・最低賃金 ※2024年(令和6年) 発効後 |
旧・最低賃金 ※2024年(令和6年)9月時点 |
---|---|---|
福岡県 | 992円 | 941円 |
佐賀県 | 956円 | 900円 |
長崎県 | 953円 | 898円 |
熊本県 | 952円 | 898円 |
大分県 | 954円 | 899円 |
宮崎県 | 952円 | 897円 |
鹿児島県 | 953円 | 897円 |
沖縄県 | 952円 | 896円 |
参考:あなたの賃金を比較チェック|最低賃金制度
参考:令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について
2024年の最低賃金は、発効後すべての都道府県で引き上げられます。 アルバイト先の賃金と照らし合わせて、最低賃金を下回っていないかチェックしてみましょう。
2024年の最低賃金引き上げはいつから?例年10月初旬に実施
最低賃金の改定は例年10月初旬に発効され、2024年は10月1日から10月下旬の間に順次引き上げられます。 引き上げの発効日は各都道府県によって異なり、発効年月日は厚生労働省の「あなたの賃金を比較チェック|最低賃金制度」にて確認できます。アルバイトの時給が最低賃金を下回っていないか確認しておくと良いでしょう。
2024年の厚生労働省が公表した最低賃金額の改定の目安
厚生労働省が公表した2024年の最低賃金額の改定の目安は「Aランク50円」「Bランク50円」「Cランク50円」です。 A~Cは各都道府県に振り分けられたランクで、賃金の引き上げ額はランクごとに決定します。
ランク | 都道府県 |
---|---|
A | 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 |
B | 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 |
C | 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 |
参考:令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について|厚生労働省
最低賃金額改定の目安は、厚生労働省の中央最低賃金審議会にて答申が取りまとめられます。 毎年7月末に公表され、2024年の改定目安も例年どおり7月に公表されました。 引き上げ額が決定した結果、2024年の最低賃金の全国加重平均は1,055円となり、引き上げ平均額は歴代最高の51円になりました。
5.最低賃金を下回るのが問題ない特例・例外ケース
最低賃金以下で働くのは違法ですが、以下に該当する場合は下回っても問題ありません。
- 精神または身体の障害によって著しく労働力が低い方
- 試用期間・研修期間中の方
- 認定職業訓練を受けている一部の方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
最低賃金以下で働いても問題ないケースについて、詳しく解説します。
精神または身体の障害によって著しく労働力が低い方
精神または身体の障害によって著しく労働力が低いと判断される場合は、最低賃金以下で働いても問題ありません。 仮に精神または身体の障害を持つ方も含めて全員同じ最低賃金が適用されると、雇用機会を狭めてしまう可能性があります。 最低賃金以下で働くことを許可することで、通常業務が難しい方でも簡易的な仕事をして収入が得られます。
試用期間・研修期間中の方
試用期間・研修期間中の方は、最低賃金以下で働いても問題ありません。 試用期間や研修期間は本採用の前に、本人のスキルや会社に合っているかを確認する期間です。 研修や講義などを受けることが多く通常の労働力を期待していないので、最低賃金以下で働いても違法ではありません。
認定職業訓練を受けている一部の方
認定職業訓練を受けている一部の方は、最低賃金以下で働いても違法ではありません。 認定職業訓練とは、事業者が実施する職業訓練のなかで「職業能力開発促進法」に該当する訓練のことです。 訓練期間中は、通常の労働力が期待されていないので最低賃金法の例外と判断されます。 訓練期間中であっても通常の労働と判断される時間が所定労働時間の3分の2を超えると、最低賃金法の例外は適用されません。
軽易な業務に従事する方
軽易な業務に従事する方は、最低賃金以下で働いても問題ありません。 軽易な業務に従事する方というのは、簡単な業務をしている人という意味ではなく、 最低賃金で働いている労働者の軽易な業務よりも更に軽易な業務をしているということです。
断続的労働に従事する方
断続的労働に従事する方は、最低賃金以下で働くことが許可されます。 断続的な労働とは宿直のような業務が該当し、待機時間が多く実際の作業時間が短い働き方のことです。 実働時間が少ないので最低賃金以下で働いても、違法とは判断されません。
6. 最低賃金未満で働いている場合の対応策
もし、会社側が最低賃金の改定に気づかずに、最低賃金未満で労働者を働かせていた場合はどうなるのでしょうか?労働法を専門とされている南山大学法学部の緒方桂子教授にお話を伺いました。
会社が最低賃金の改定に気づいていない場合
Q.去年始めたバイトは時給920円でスタートしました。2023年10月の改定で最低賃金は960円に変わっています。僕の時給は920円のままなのでしょうか。
A.いえ、違います。あなたのバイト先はあなたに最低960円の時給を支払わなければいけません。最低賃金法第4条2項では、「最低賃金を下回る賃金額を定めた場合、その部分は無効とする」と定められています。そして、無効となった部分は、最初から、そのときに定められている「最低賃金額」で約束されていたと読み替えることになっています。
最低賃金法 第四条
最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
このことから、労働者には、最低賃金が改定された時点でその額以上の賃金を請求する権利があり、会社は労働者に対し、改定された最低賃金以上の額の賃金を支払わなくてはなりません。これは、最初から最低賃金より低い賃金で働く契約を結んだ場合でも同様です。とはいえ、黙っていれば、おそらく最低賃金額より低い額の賃金で支払われてしまうでしょう。
会社に言えない、聞いてもらえないときの相談窓口
Q.私の時給も最低賃金を下回っていますが、バイト先の店長に言い出しにくい場合はどうしたら良いでしょうか。
A.労働基準監督署に相談しましょう。バイトの立場で会社に対して「不足分を払ってください」というのは、なかなか難しいかもしれません。
労働基準監督署というのは、労働関係に関する「警察署」のようなもので、会社に立ち入り検査を行う権限を持っていますし、違反行為がみつかれば是正指導を行うこともできます。匿名での相談も可能。相談や申告をしたことが会社にわからないようにしてほしいと言えば、そのように対応もしてくれますので、会社に直接言えない、あるいは言っても聞いてもらえない場合は相談してみましょう。労働基準監督署というのは、労働関係に関する「警察署」のようなもので、会社に立ち入り検査を行う権限を持っていますし、違反行為がみつかれば是正指導を行うこともできます。匿名での相談も可能。相談や申告をしたことが会社にわからないようにしてほしいと言えば、そのように対応もしてくれますので、会社に直接言えない、あるいは言っても聞いてもらえない場合は相談してみましょう。クビになったり、嫌がらせを受けたら怖いなと思うかもしれませんが、労働者が法律違反の事実を労働基準監督署に申告したことを理由に、会社が労働者に対して解雇や不利益な取り扱いをすることは許されません。このように、自分の要求や立場が法律によって守られていることを知っておいてください。
最低賃金法 第三十四条
労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
7. 最低賃金についてよくある疑問
Q.最低賃金を下回っていた期間の賃金は後から請求できる?
Q. 最低賃金未満で働いていたことに後から気がついた場合は、足りない分をバイト先に請求することはできますか?
A. 請求できます。過去2年以内の未払い分については、直接会社に請求するほか、労働局などが行う「個別労働関係紛争調整制度」を利用することで請求することができます。もしくは、労働基準監督署に行って違反の事実を申告すれば、労働基準監督署が会社に対して不足分を支払うように指導してくれます。
こういった制度について詳しく知りたい、あるいは、利用したいと思ったら、各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」で相談しましょう。
試用期間や研修期間に最低賃金を下回るのは例外的にOK?
Q. バイト初めの3カ月間は、「試用期間」として、最低賃金を下回る時給で働いていました。これは違法ではないのですか?
A. 違法とはいえません。最低賃金法第7条で「減額特例制度」が設けられており、認められています。試用期間中の労働者に対する賃金は、最低賃金の最大20%まで減額することができます(最低賃金法施行規則第5条)。
しかし、この減額特例を受けるためには、会社は都道府県労働局長に減額の申請を行い、許可を得なければなりません。過去の統計を見ると、2016年の試用期間を理由とする減額特例の申請件数は「0件」、許可件数も「0件」で、試用期間を理由とする減額特例の許可はほとんど行われていないと考えて良いでしょう。
アルバイトを始めたときに、「最初の3カ月は試用期間だから」として、最低賃金を下回る賃金額で払おうとする会社もあるかもしれませんが、都道府県労働局長の許可がない場合、会社は最低賃金以上を支払わなくてはなりません。
Q.個人経営店は最低賃金以下で働いても問題ない?
個人経営店であっても、最低賃金以下で働くことは違法です。 使用者と労働者が最低賃金以下で働くことに同意していたとしても、無効になります。 もし個人経営店で最低賃金以下の時給で働いている場合は、労働基準監督署に相談しましょう。 使用者が知らなかったとしても最低賃金以下で働いている場合は、過去に遡って差額分を支払う義務があります。
Q.最低賃金以下だった場合はどこに通報・相談すれば良い?
給料が最低賃金以下だった場合は、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談しましょう。 勤務先の上司に最低賃金について相談するのは、言い出しにくいと思うので然るべき場所で相談するのがおすすめです。 勤務先に伝わるのが嫌な場合は匿名での相談もできるので、問い合わせたときに知られたくないことを伝えましょう。
Q.同意・合意の上で最低賃金以下で働いているのは問題ない?
同意・合意の上であっても、最低賃金以下で働いているのは違法です。 仮に労働契約書上で合意していても、最低賃金法が優先されるので契約は無効と判断されます。 同意・合意の上で最低賃金以下で働いている場合も、労働基準監督署に相談するのがおすすめです。
Q.最低賃金が上がったのに時給上がらないのは違法?
最低賃金が上がったのに時給が上がらず、結果的に時給が最低賃金以下になってしまった場合は違法です。 しかし、もともとの時給が上がった最低賃金よりも高い場合は、上がらなくても違法ではありません。 現在の時給が、最低賃金よりも下回っているか上回っているかで判断しましょう。
Q.最低賃金以下を提示している会社は辞めた方が良い?
最低賃金以下で働かせる会社は辞めたほうが良いかもしれません。 辞めたくない・辞めにくい場合は、まず労働基準監督署に相談してみるのがおすすめです。 会社に対して指導が入るので、最低賃金以上の時給に変更される可能性が高いです。
Q.2024年10月からの最低賃金ランキングを教えてくれませんか?
2024年10月からの最低賃金のトップ5をランキング形式でまとめました。
順位 | 都道府県 | 最低賃金 |
1 | 東京都 | 1,163円 |
2 | 神奈川県 | 1,162円 |
3 | 大阪府 | 1,114円 |
4 | 埼玉県 | 1,078円 |
5 | 愛知県 | 1,077円 |
最低賃金がもっとも高い都道府県は東京都で、同じ関東の神奈川県・埼玉県がランクインしています。 関東以外では大阪府と愛知県がトップ5に入っており、いずれの地域も最低賃金が1,000円を超えています。より詳しい最低賃金ランキングについては以下記事をご確認ください。
【2024年最新版】全国最低賃金ランキング!全国平均は1055円に|マイナビバイトTIMES
2025年の最低賃金はどれくらいと予想できますか?
2025年の最低賃金は、2024年に引き続き上昇する可能性が高いと予想できます。 過去5年の最低賃金の推移を見ると、コロナによって経済が停滞した年以外は20~50円程度引き上げられていることがわかります。
年 | 最低賃金の全国加重平均額 |
2020年(令和2年) | 902円 |
2021年(令和3年) | 930円 |
2022年(令和4年) | 961円 |
2023年(令和5年) | 1,004円 |
2024年(令和6年) | 1,055円 |
参考:平成14年から令和6年までの地域別最低賃金改定状況|厚生労働省
引き上げ額は年々増加しており、最低賃金は上昇傾向にあるといえるでしょう。 近年の傾向から2025年も20~50円程度引き上げられる可能性があります。
8. 最低賃金をチェックした上で勤務先を決めよう
アルバイトやパートなど雇用形態に関わらず「最低賃金」はすべての労働者に適用されます。最低賃金は毎年改定されるので、気づかないうちに自分が住む地域の最低賃金が変わっている可能性があります。以下の記事にて全国の最低賃金一覧を掲載しているので、バイトを探す前に各地域の最低賃金を調べておきましょう。
緒方桂子氏
南山大学法学部教授、専門は労働法。著書に
『労働法』(有斐閣ストゥディア、共著)など。